自分のレコードーRec my order
CRAZY KEN BAND/レコード
レコードが好きだ。
この一言で久々の日記を終わらせても良いけれど、読む側からすれば「お、おぅ…で?」となるのも当然なのでもう少しだけ続ける。
個人的にはCDもデータでも音楽は人並み以上には聴く人間であるし、それらの便利さも十分承知はしている程度には「レコード原理主義者」ではないだろうという自覚はある。
そもそもレコードなんてかさばるし重いしノイズ入るし反るしで、ひどい例を挙げればアフリカから輸入したレコードの匂いを嗅いだら日本にはいないウィルスに感染して高熱を出してしまったなどという都市伝説みたいな話もある。
とにかく面倒なシロモノなのだけど、面倒なシロモノだからこそそこに情が生まれるとも言える。
レコード屋で棚からレコードを抜く作業(俗に「掘る」と言いますが)、ジャケットを眺めたり裏ジャケに書かれている曲名やプロデューサー、ミュージシャンのクレジットを読んだり、インナースリーヴと呼ばれるレコード保護用の紙やヴィニールでできたカヴァーが傷まないように慎重にレコードを取り出したり、ターンテーブルにレコードを置いて好きなところに針を置いたり、A面が終わったらクルッと裏返してB面にする行為だったり、、、(以下、レコードにまつわる行為の羅列が数十行に渡って続くのだが自重)
つまり、レコードを聴いたり所有したりする際に行われるルーティンがいかにレコード者に対して様々な身体的刻印を与えるか、という小難しい事を並べ立てて「自分がいかに豊かな音楽生活を送っているか」などと言いたいわけではなく、その「面倒臭さ」が当たり前の人間にとってはCDもデータも「自分が入り込む余地があまりにも少ない」なあと思ったりする。
工業製品的な弁当よりも自分で作ったご飯の方が美味しく感じる、というような感覚に近いと思う。
どうでも良いが、世間で評判の「美味い店」よりも「おふくろの味」が美味いのは「その味に慣れてるだけ」という恐るべき面があるのは見逃しがち。
閑話休題。
長年レコードを買い続けていると、買ってから一回聴いたきりで以後まったく聴いていないレコードというのもざらにあって、そんなレコードの扱いに困る事態が必ず起こる。お気に入りのレコードと変わらないサイズで部屋を浸食してくる。仮にレコード屋に下取りに出したとしても、そもそも自分が好きでもないレコードが「良い値段」に化けることもほぼない。そしておそらくレコード屋に再び並んだとしても「タダ同然で仕入れたレコード」が「お買い得なレコード」となるだけで、しかもそれらのほとんどは買い手が見つからないんじゃないだろうか。
価値を見出されなかったレコードというものは、表紙の付いたただの黒くて溝のある平たいヴィニールという大量生産された古い工業製品と化す。
これは厳粛な事実。
「レコードが好き」とのたまう人々は、基本的には「価値を見出せるレコードが好き」なんであって、この事実は「なかったこと」になっている。
大量生産品とはそういうものなんだから仕方がないと言えば仕方ない。
そういうものなんです。
ただ、振り返ってみると、レコードにまつわる様々な行為がレコードを大量生産された工業生産品にさせない面はやはりあって、もう聴くこともなく仮に売ったとしても二束三文にしかならないようなレコードに対して、僕はそれらにかつて行ってきた行為をさらに推し進めて、「大量生産された工業生産品」から「世界にひとつしかない手工業品」にしてしまおうと考えた。
以前、『Greatest Hits』というタイトルでzineにしたシリーズがあって、それはレコードのジャケットに絵具を塗ったり何かを貼ったりした作品をまとめたものではあったけど、そのzineに収録されているのは70枚ほどのレコードの表ジャケットのみで自分の中では「まだ途中」感が拭えなかった。
レコードには裏ジャケットもあるし、レコード自体にもAB面がある。つまり一枚のレコードには四つの面がある。これを埋めて、さらにこの自作のレコードが100枚以上ないと格好がつかねえだろう、という自分の中だけのモヤモヤしたものがあった。
この間、数えてみたらようやく100枚を超えていたので、『WORKS』の「Greatest Hits」も大幅に更新。http://watabego.com/works/portfolio/greatest-hits/
よくよく考えてみれば『ミンガリング・マイクの妄想レコードの世界』という超濃ゆいコンセプト(レコードやジャケが段ボールでできてる!架空のLIVEレポートとかしてる!)が既出なのだけど、これが出版されたのが2009年で、僕はこの作品集が出るより以前にこのシリーズに手をつけ始めていて、これを見た時は「やられた」という落胆よりも「わかる!そうだよな!自分だけのレコード作りたいよな!!な!!!」と親友を見つけたような気持ちになってとても熱くなったのを思い出す。
これからやりたいのは、これらの100枚以上のレコードを使って、めちゃくちゃなMIX音源(ジャケットもレコードも跡形のない目隠し状態なので、そもそも使用する人間がどんな音が入っているのかわからなくなっている)を作って、そのブックレットで『Greatest Hits』の完本も作りたいなあ。
というわけで、こういうことをしたくなるくらいに、僕はレコードが好きだ。
2012/09/05