『SOFT SHOP&TALK』

ART EVENT MUSIC

だいぶ前になってしまいましたが、6/21(土)〜7/6(日)に原宿のthe blank galleryにおいて、僕と齋藤祐平さんの『SOFT SHOP』という二人展をおこないました。

 

 

僕はレコードのジャケット両面にコラージュ、ペインティングをしたり、レコード自体にペインティングをした『GREATEST HITS』シリーズと、ペインティングされたノイズや針飛びだらけのレコードから音をサンプリングをして再構成した音源集『SCRATCH & MELT』を出品しました。

 

 

 

齋藤祐平さんはカセットテープにコラージュした作品であったり、カセットテープをメディアとした版画作品や、今回の展示のフライヤーにコラージュしたり、いろいろな作品を出品していました。

 

 

6/28(土)には、僕と齋藤祐平さんに加え、the blank galleryのディレクターである佐藤由基孝さんを司会に『SOFT TALK』というトークショーをしました。

今回の展示に至る経緯、お互いのコラージュ観や方法論、さらには自分の作品の在り方や流通の仕方など、多岐に渡るトーク内容となった気がします。

途中で都築潤さんが発言してきたあたりは、個人的にも「アートか雑貨か」「グッズとは何か」など、これまでぼんやりと考えてきたことが明確に意識しても良い話なんだと確信したできごととなりました。

当日のトークを齋藤さんがテープレコーダーで録音をし、さらに文字起こしをしてくれたのでUPしたいと思います。

 

2014/6/28
渡部剛×齋藤祐平「SOFT TALK」@THE blank GALLERY
聞き手:佐藤由基孝(THE blank GALLERY ギャラリーディレクター)

 

佐:
皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。進行役をやらせていただきます佐藤と申します。こちらお二人、作家さんの齋藤祐平さんと渡部剛さんです。
作品に関してはこの後じっくり語っていただくとして、まず初めに、今回の展覧会「SOFT SHOP」を企画することになったいきさつをお話させていただきます。どこから話せばいいかな…。渡部さんが、以前うちのグループ展(注1)に参加していただいてまして、割と最近…こないだのゴールデンウィークごろに。 

 

渡:
そうですね。こないだの4月の終わりから5月頭まで参加させていただいて。

 

佐:
その時もレコードの作品だったんですけれども。その時のグループ展というのがちょっと人数が多くて、7人ぐらい。 

 

渡:
ぐらいですかね、はい。

 

佐:
グループ展としてのテーマみたいなものも特に無く、みんなそれぞれが好き勝手いろんな作品で展示していて…でまあそういうグループ展はにぎやかなのはいいんですけど、なかなかちょっと一人一人の作品に集中して入り込むっていう意味ではちょっと難しいところがあって。で、僕がちょっと渡部さんの作品をもうちょっとちゃんとした形で見せたいなっていうのがあって…前後のプロセスなんかも結構重要なので。それもあって、今の時期もともと渡部さんの個展ていう話を。

 

渡:
そう、もともとそういう話でしたよね。「全然新作ないしどうしようかなあー」って(笑) 

 

佐:
でも、作品数はとにかくいっぱいあったので…。

 

渡:
飾ることはできるんですけど。

 

佐:
その時はほとんど段ボールに入れっぱなしで、こうやって(手に持って)見るみたいな展示だったので。やっぱりちょっとあれ、壁を埋め尽くしたら迫力あるだろうなあというので。

 

渡:
と、レコードのジャケットにコラージュしてるの…僕なんですけど、ただ壁にフラットに並べるだけじゃ面白くないなと思ったんで、まあスペースの関係もあって。ディスクユニオンの段ボールに作品を入れて、レコードを買う時に探すような感じで作品を見てもらえればなと思って、そういうふうにやったんですよね。

 

佐:
そうですね。でまあ…そう、個展ていう話が実はあって。で、ちょうど同じ時期に、齋藤さんが別のところで展示をしてて見に行ったんですけど。

 

渡:
衝撃の…(笑)

 

齋:
「絵画サークル展」(注2)て、阿佐ヶ谷の区民センターでやってたんです。

 

佐:
僕と齋藤さんはその時は…ほんと何度か、挨拶程度ですよね?

 

齋:
そうですね。それまでは林香苗武(注3)の「天体」(注4)っていう一日だけの個展を企画した時に佐藤さんがいらっしゃってて。棚ガレリ(注5)の松下学の紹介で一度挨拶したぐらいでしたよね。

 

佐:
ですね。あと去年くらいからここにフライヤーを置きに来たりとか、そういう。だからいきなり会っても「あれ?誰だっけ」くらいの(笑)

 

齋:
(笑)そう。「絵画サークル展」の時も佐藤さんのこと最初気付いてなくて。最近あんまり人の顔ちゃんと覚えられなくて。

 

佐:
で、林香苗武さんの展示の時に「絵画サークル展」のフライヤーをいただいて、ちょっと行ってみようかなって。とにかく僕それ見て衝撃受けちゃいまして。この人噂には聞いてたけど(笑)すごい人がいるなと。

 

齋:
あ、ありがたいです(笑)

 

佐:
いやいやほんとに、なんかあの、すげーなとか思いながら帰って。その次の日ぐらいに、渡部さんが展示中だったから「昨日齋藤さんの展示見に行ったんですけど」みたいな話で盛り上がっちゃって。その時までは渡部さんと齋藤さんも面識はあるけど…

 

齋:
顔見知り程度ですね。

 

渡:
なんか2回くらい挨拶したことがあって、あとはほとんど…。でも出入りしてる場所が近いんで、ニアミスとかはしてるんでしょうねきっと。

 

齋:
美学校(注6)とか芸術公民館(注7)にいると、けっこう見る人だなって思ってはいたんですよ。渡部さんの名前とかもなんとなく知ってたんですけど、でも名前と顔が一致したのはここ最近。

 

佐:
(笑)そんなレベルだったんですか。

 

齋:
そうそう。ほんと今年入ってからです。

 

佐:
で…、渡部さんと齋藤さんの展示の話をしてて。渡部さんも「齋藤さん気になってるんですよ」みたいな話をひとしきりして。多分その次の日かまたその次の日くらいに齋藤さんがうちの展示見に来てくれて、渡部さんの作品とか見ながらいろいろ話して。もうなんか僕の中で一日おきに渡部さん齋藤さん渡部さん齋藤さんみたいな(笑)すごい、そういう時だったんで。齋藤さんがカセットのシリーズやってたっていうのも見て知ってたんで「ちょっと渡部さん、個展って話でしたけど、申し訳ないけど齋藤さんと二人でやってみませんか」みたいな話をしたら、2人ともぜひみたいな。ほんとそんな、(開催まで)2か月もないくらいの(笑)

 

齋:
一か月半くらい前ですかね。

 

佐:
あれよあれよの話で。

 

齋:
ワンツーくらったんですね、一日おきに(笑)

 

佐:
その3日後くらいには3人で打ち合わせして。タイトルあーだこーだとかいろいろあって。といういきさつで、今回の「SOFT SHOP」を開催しました。

 

齋:
急な割にはけっこう良くできたと思う。

 

渡:
時間そんななかったですよね(笑)

 

佐:
平日毎日夜7時から11時くらいまでかけて搬入して。

 

渡:
僕が搬入日を間違えたりして(笑)

 

佐:
そうそう(笑)じゃまあ、それぞれに軽く自己紹介を兼ねまして、今回展示している作品についてお話いただければと思います。

 

渡:
渡部剛です。僕が今回出してるのはLPサイズのレコードジャケットの両面にコラージュをしてて、中のレコードにも色を塗ってるんですけど、全部。…っていうのを、今回出してます。レコードに色を塗った後で、そのレコードから音をサンプリングして再構成した音楽もギャラリーで流してて。で今度はさらにそれをCDRに焼いて、ジャケット1枚1枚にコラージュ作品が入ったものも作ってます。

 

齋:
(CDRのジャケットは)全部一点ものですか?

 

渡:
全部一点ものです。もともと複製品だったり、複製するために作ったものを最終的にまた一点ものにしてしまう、という。そういうのを今回は出してます。はい。

 

佐:
今回大まかなくくりとして、レコード担当の渡部さん・カセット担当の齋藤さんという。渡部さんは今お話しいただいたシリーズがまあメインなんですけど、齋藤さんほんといろんな作品を…今回は絵もカセットの間に紛れ込ませて展示してますけど。

 

齋:
えっと、今回カセットを主に並べてはいるんですけど、いくつかいわゆる平面作品があって。カセットの原寸大で(カセットを模した)木版を作って、それを刷っただけの作品もあれば、絵の一部分として画面に刷ったり、刷ったものを貼ったりした作品とかもあって。一応全部の作品が、カセットに関係してるっていうふうにはしてあるんです。あと、並べてあるカセットは、基本生活音なんかを全部録音してあるんですけど…それに自作のジャケットをつけたっていうやつで。それをさらにスキャンしてPC上で構成して、コラージュの素材に使った作品も展示してます。他は今回の展覧会のDMにコラージュしたっていうのもあります。それも一応カセットと関連付けたいなあと思って、カセット買うとついてくるシールを素材に使ってます。

 

佐:
お2人がそもそもレコードやカセットを支持体に選んだ理由は何だったんですか?

 

渡:
僕はたまたまです。(笑)全然それで何か作ろうと思って買ってたわけじゃなくて。もともとレコードで音楽を聴くのがすごく好きで、大量に買っちゃうんですよ。中学校ぐらいにヒップホップにはまって。で、やっぱイメージつったらDJのあの感じじゃないですか。レコードでやるもんだっていうのがあって、レコード屋さんに通うようになるんですよね。大量に安いレコードとか買ったりするんですけど、さすがに20年くらい経ってくると置き場所無くなってきたりとかして。売ったりもするけどすっごい安いんですよ。1円とか10円とかになっちゃって。それだったらこれでなんかやったほうがいいってなって。
コラージュは前からやっていて、古い週刊誌とかのキャッチコピーをひたすら切り抜いてたりする作品とかもあるんですけど、その大量に買ってた昔の雑誌のそこかしこに変なイラストとかあったりするんですよ。古い広告とか写真とか。そういうのを切り抜いて貼ってるのがあれなんですよね。だから全然、「レコードで何かしてやれ」みたいなメディアアート?的なスタートでもなくて。あとはでも、なんかこう、「白紙から描く怖さ」みたいなのないですか?(笑)

 

齋:
たまにあったりします。ジャケットだと下地があらかじめある感じですよね。

 

渡:
白紙からだとなんか「失敗できねえな」みたいな(笑)。後戻りのできなさ、一から責任取らされるんじゃないかっていう。白紙からだと、より構成とかそういうのを突きつけられるじゃないですか。ここにこれを置いたら次はどこに置くみたいな、詰め将棋みたいになる感じもあったりとか。まあ単純にいっぱい作ればものが増えちゃうから、それだったら最初からあるやつに手を加えれば、まだものは増えなくて済むんじゃないかっていうのもあります。

 

佐:
もともとそれがレコードだった意味合いというか、なんというか…。

 

渡:
やっぱLPのこのサイズとかは好きで。なんかそういうのは「いいなあ」と思いながら…ジャケットやってみたいなあっていうのはあったんで。じゃあ別に仕事でやってるわけじゃないけど、自分で作っちゃえと思って。

 

齋:
レコードの作品を作り始めてから、例えば板にコラージュするとかはそんなにやらなくなった感じですか?

 

渡:
(展示スペース外にある、板パネルを支持体にしたコラージュ作品を指して)そこにも飾ってもらってる、あれは普通に大きい木製パネルにやってるんですけど…全然やっぱり意識は違ってて…なんか作ろうと思って作ってる感あるじゃないですか。がんばってる感が(笑)

 

齋:
細かく貼ってますよね。

 

渡:
レコードは割と気楽にできちゃうというか。全然うまくいかなくてもまた次すぐできちゃう、そのカジュアルな感じはいいなと思ってます。

 

佐:
あれだけレコードのシリーズやってて、ボツにした作品てありますか?だめだこれみたいな。

 

渡:
だめだったらまた上から塗っちゃえばいいから。

 

齋:
じゃあ今のところボツにした作品は…

 

渡:
ないです。

 

佐:
いつぐらいからやってるんですか?

 

渡:
5年前くらいからです。一番最初に、2年前くらいですか、TRANS ARTS TOKYO(注8)っていう、神田の錦町の電機大学が移転して壊しちゃうから丸々使えるってアートイベントみたいのがあって。その時に、それに合わせていっぱい作って初めて全部飾ったことはあって。

 

齋:
それって何枚飾ったんですか?

 

渡:
今とほとんど変わらないけど、でも100枚以上はあって。レコードとジャケットをただただ壁にぎっしり交互に並べてた。それがまあ最初で。なんか割とちょくちょく作品の展示とかしてるんですけど、毎回いろいろ展示の仕方を工夫したりして。そんなに一気に増えるものでもないので(笑)。そこちょっと齋藤さんと違うんですよね。

 

齋:
(レコードとカセットの)サイズも違いますもんね。
…カセットは2007年くらいから作り始めたんですけど。秋葉原のアウトレットショップを覗いてたら、包装のビニールが破けちゃった欠品みたいな10本組パックのカセットテープが売られてて。それが1パック100円とかだったんですよ。めちゃくちゃ安くて。それをたくさん買ったんですよね。その時には特に何も考えてなかったというか、テレコも持ってなかったし、何しようかなって感じだったんですけど。

 

渡:
作品になった感じはイメージしてなかったんですか?
 
齋:
してなかったですね。なんか使えるかなと思って買ったんですよ。それで、友達からテレコを借りて録音し始めて、ジャケットをつけるようになったんですけど。それが2007年の暮れくらい。だからもうけっこう長いんですけど、カセットをメインにした展覧会ってそんなにやってなかったんですよ。去年mograg garage(注9)でやった「Tape Hits & More」って個展が初めてで。その時は650本くらい展示して、今回展示してるカセットの本数は多分400弱くらいです。…それで、最初は買ったカセットを使ってたんですけど、そのお店にも欠品のカセットが流れてこなくなって、今もうヨドバシとかにもカセットは売ってないしダイソーでは売ってるけどちょっと高いので、今までの手に入りやすさと比べると気持ちも盛り下がっちゃって。で、なんとなくブログに「ご不要のカセットテープお持ちの方お譲りいただけませんでしょうか、僕はこういうものを作っています」ってジャケットの画像も載せて書いたんですよ。そしたらいろんなとこからけっこう反応があって。ありがたいです。

 

佐:
カセットテープのジャケットは、どのくらいのペースで作ってるんですか?

 

齋:
キャンバスとかに描いた絵をメインにした展覧会の予定がある時は、カセットのジャケット作りは止めるんですよ。だから波があるんですけど、今のところ3500本くらい作ってると思います。でもサイズも小さいし、雑誌から切り抜いた図版を差し込んだだけのもあるし。

 

渡:
3500本くらいあって、展示では600本とか400本とか出すじゃないですか。その選択ってどういう基準なんですか。

 

齋:
それはもう感覚的にやってます。渡部さんみたいに「後で改良しよう」みたいなのは僕、多分あんまりなくて。完成したカセットをアップしていくTumblr(注10)があって、展示に出せなかったけどこれも捨てがたいなっていうのはそこにどんどん放り込んでます。mogragの時は4本か3本の中から1本選んだくらいの量を出したんですよ。選外のやつも写真を撮って、一応Tumblrで見れる状態にはしてあります。

 

佐:
Tumblrにも載せないボツもあるんですか?

 

齋:
あります。封印するってことになっちゃうけど…

 

渡:
その辺の感覚的な線引きってどういう…

 

齋:
「これちょっとあんまりだな」(笑)っていうのは、昔は絵に張り付けて素材にしてたりもしてて。今回は出してないですけど。テープをビロビロって出してボンドで固めたりとかそういうこともしてた時期があったので。4年前くらいかな。何かしら使い道はあります。だから渡部さんのを見てると、けっこう貼りこんでペイントしてっていう…手数がやっぱり多いし、それは多分、レコードジャケットは紙でカセットテープのケースはプラスチックだっていうのも大きいと思うんですけど。

 

渡:
やっぱりできることが違ってきますよね。

 

齋:
僕ボンドじゃなくてセロハンテープで貼ってるんですよ。ケースの上から。全部がそうではないですけど。

 

渡:
支持体のサイズと素材の違いは大きいですよね。

 

齋:
カセットだと小さいから、電車の中でスケッチブック描いてるみたいな軽い感覚でコラージュが作れるみたいなのはあります。

 

佐:
カセットの中にはフィールドレコーディングが入ってるわけですよね。それとの関連性っていうのは?録音したその日にコラージュもやるんですか。

 

齋:
音との関連性はないです。後で聞いたりとかもしません。録音とジャケットを作った日付もバラバラだったりします。

 

渡:
そもそもなんで録音しようと思ったんですか?

 

齋:
フィールドレコーディングをやってた友達がいて。平間貴大(注11)って人が。昔いつもテレコまわしていて、一時期テレコ2台とデジタルレコーダー1台同時にまわしたりとかしてて。しかも、カセットを1回録音したのにまたつぶしたりしてるんですよ。録音行為自体が目的化してるような感じで。
…多分、平間の録音熱がちょっと冷めたくらいの時に僕がその秋葉原のアウトレットショップを見つけたんですよ。それでテレコを貸してもらったっていう流れだったと思います。ほとんど借りパク状態になってしまって最終的に壊れて、mogragの時うやうやしく台に乗せて展示しました。

 

佐:
…レコードとカセットという支持体についてはこれぐらいですかね?あまりお2人ともこだわりはなくて、きっかけはたまたまという感じでしょうか。

 

齋:
僕もきっかけがあればレコードに何かやることもあると思います。渡部さんはレコード以外に何かやったりとかはあるんですか?CDのジャケットは作られてますけど。

 

渡:
それがねえ…木彫りの熊に色を塗ったりとかはありますけど。コラージュ自体は、まあ何かを貼るっていうことで、上書きって面があるじゃないですか。既存のものというか、とっかかりが何かしらあったほうがいいかもしれませんね。

 

佐:
お2人ともコラージュだけじゃなくていろんなことをやってらっしゃいますけど、コラージュという手法に関しては何かきっかけみたいなものはあったんでしょうか?

 

渡:
僕は、高校生の時に渋澤龍彦(注12)の本にはまってた時期があって。渋澤が文学以外にも美術とか、いろいろ紹介してて。和洋問わず。その中にシュールレアリスムの紹介があって、エルンストが博物誌の図版とかを人間の顔にしてるのを見たのが意識した最初かなあ。図像としてかっこいいなと単純に思って。あとは、後付けかもしれないけど、ヒップホップ聞いてたっていうのが大きくて。僕の好きなヒップホップは、昔のレコードから音をサンプリングしてそれをループさせてその上でラップしたりっていう。そういう面白さっていうのも、なんとなくコラージュにも通じてるなあと思います。

 

齋:
自分で音源も作ってますもんね。音ももっと聞きたいです。

 

渡:
あとまあ大竹伸朗さんとかやっぱり、「全景」展とか何回も見ましたし本も持ってるんで、少なからず影響は受けてるはず。

 

佐:
齋藤さんはどうですか?

 

齋:
コラージュ…僕もシュールレアリストのコラージュ作品を本で見たりしてかっこいいなと思ったけど、高校の時まで美術とかを本当にやんわりとしか知らなかったんですよ。高校までは田舎の農村で育って、近くにある本屋さんになぜか置いてあったクイックジャパンやスタジオボイスを立ち読みして「なんか知らないけど東京にはかっこよさげな世界がある」とか思ってた典型的な都会憧れの小僧だったので。雑誌の影響がすごく大きかったです。だから、大竹伸朗さんとかはそういう雑誌でも紹介されてたから刷り込みがあるんだと思う。エルンストとかは載ってないから…。美術手帖は読んでなかったと思うなあ。音楽のほうに興味があったからかも。その頃僕はテクノが好きで、高校がつまんなかったからクラブに遊びに行ってたりしてたんですけど。あんまり美術の方面からそういった作品を見るという経験はしてなかったと思います。
そう、あと大竹さんの話は今回しようって前もって言ってたんですよね。割とこういう、即興的に構成していく、またはそう見えるコラージュってのを日本の僕らくらいの世代の人間が作ってるって時に、大竹さんからの影響っていうのは何かしら考えさせられるところだと思うので。そういう人たちが大竹さんを心の中でどういう位置に置いてるのかっていう。

 

渡:
そうですね、やっぱりどうしても言われますもんね。

 

齋:
僕は全然影響を指摘されることに関しては良くて。というか石井香絵ちゃんにインタビュー(注12)された時にもう大竹伸朗の大ファンみたいな文面はネット上に公けになってるし(笑)。「全景」展も初日前夜から並んだし、「影響受けてないです」なんて言い逃れはするつもりもないし実際すごい影響受けてる。
で…「全景」以降も何度か大竹さんの展覧会を見て、作品以外の部分がだんだん気になってきて。なんていうか、自己の歴史の編集の仕方に興味が出てきたんですよ。大竹さんは、大きな会場での展覧会ではけっこう自分の時間の積み重ねをガツンガツンと見る人に提示するというやり方が多くて。で、僕はそれはあんまりやりたい方向ではないなあって思っちゃったんです。

 

渡:
自分の歴史っていうのは、過去作って意味ですか?

 

齋:
過去作とか、自分の活動全て。なんていうか、それをドバっと提示して、結果見る人にスペクタクル的な衝撃を与えるっていうのは自分の目指す方向じゃないなって思ってしまって。僕は作品の他にも、去年コインランドリーで展示をやったりだとか、過去に商店街の空き店舗で展示をやったりとか、どういう場所・シチュエーションで展示するか/それによって見る人の見え方がどう変わってくるかっていうことも含めていろいろ試すのが好きで。それを例えば白い壁のある大きなスペースでまとめて見せようってなった時に、ただ作品をズラッと並べただけで伝わるかって言ったら違うじゃないですか。だから出来事優先というか、博物館みたいな展示のほうが合ってるのかなと思うけど…「こういう場所での展示だったから、こういう作品を集中的に作ったということがありました」みたいな。渡部さんもレコード屋さんとかで展示やったら面白そうですよね。

 

渡:
うん、五木田智央さんもレコード屋の箱の中にLPサイズの自分の作品入れて展覧会やってたりしてましたけどね。

 

齋:
そういう…雑貨的な流通のさせ方っていうか、面白いですよね。

 

渡:
僕、前に「絵と美と画と術」(注13)っていう美学校の講座にいた時の修了展で、たまたま…後から思えばそうだったなっていうのが、レコードのコラージュや普通に描いた絵も出してたんですけど、自分の作品だけじゃなくて、雑貨的なものも並べて出したんですよ。中国の体操のイラストが描かれたポスターとか、100円ショップで売ってた商品とか、まんま展示して。これもなんか架空のショップ的な感じ。木彫りの熊もこの時からありました。リサイクルショップとか、わけわかんないもの売ってるところが好きで。そこで何に使うか全然考えずに買ったりして、最終的に何かになることもあればならなかったりもする。どうしてもギャラリーとかで展示すると「これは作品でございます」ってなって、それは全然間違ったことではないんですけど、なんか場所の感じをちょっと歪ませてみるというのは面白いと思っていて。

 

齋:
喫茶店とかに、渡部さんの木彫りの熊とかがあっても面白いですよね。

 

渡:
今回も「SOFT SHOP」ってタイトルつけたじゃないですか。他にもいろいろと案は出てていまいちしっくりきてなかったんだけど、ギャラリーなのに「SHOP」って名前で展覧会をやるのはいいなと思って。2人ともなんか雑貨ぽい作品出すだろうなってのもあったんで。「〜SHOP」だろうなって思った時に、イメージとしては…竹下通りからこっちに向かうと大きいダイソーがあるんですよ。100円ショップの感じが昔からずっと気になってたっていうのがあったのと、あと2人とも小田島等さんとよく関わってたりしてたってのもあったんで、いわゆる匿名的な感じというか、そういう方向に持っていけたらいいなと思って考えてて。カセットもレコードも「SOFT」っていうけど、SOFTって何なの?謎って思って(笑)。それで「SOFT SHOP」はどうですかってなったんですよね。

 

齋:
今回の展覧会タイトルは渡部さんが出してくれた案ですよね。ちょっと謎な感じありますよね、柔らかい店なのかみたいな。

 

佐:
渡部さんから案が出た時、けっこう新鮮な感じがしましたね。

 

齋:
英語でも「SOFT SHOP」ってアリなんですか?言葉として。

 

佐:
まあ…謎な感じはありますね(笑)。なんだろうみたいな。

 

渡:
最初は「COVER FACTORY」って名前でしたけど、コラージュのイメージが強い名前になるのは何かちょっと違うんじゃないかと思って。齋藤さんもいろんな場所を使って展示したり…僕もこういうギャラリーでやるあての無かった頃に、夢の島(注14)のだだっ広い荒野みたいなとこに作品持っていってそれを勝手に展示と称して写真撮ったりとか。そういう状況とか場所とかに面白さを感じることがあったんで、それで「SOFT SHOP」っていう。

 

齋:
「FACTORY」っていうとまだなんか製品ていうか…

 

渡:
目的がある感じがするでしょ?コラージュして、こういうものをどんどん作ってくっていう。

 

齋:
なんか作品と場所についてのトークになってきましたね。

 

渡:
ただ作品を作ってギャラリーみたいな整った状況で展示するのは割とオーソドックスなやり方だと思うんですけど、場所に対する嗅覚とか…齋藤さんが例えばコインランドリーで展示をするみたいなのって、いつからやり始めたんですか?何か影響とかあったんですか。

 

齋:
大学に入ってから初めてやった展示が、大学の中にあったロッカーでやった展示だったんですよ。1期生だったので空きロッカーが余ってて。その後も空き部屋を使わせてもらったりだとか。でも貸しギャラリーでグループ展やったりもしてました。別にギャラリーでの展示に否定的だったわけではないです。今も貸しギャラリーに否定的なわけではないんですけど、払ったお金はできれば売上げなどで取り返したいので、その見込みや代わる対価をどこに見つけるかという感じです。
で、影響の面で言うと、大学を卒業してから高円寺のあたりに住んでたんですけど、近くの素人の乱(注15)ていうお店に行き始めて。その時は素人の乱に山下陽光(注16)さんていう人がいて、陽光さんの場所に対する認識の仕方がすごくて。陽光さんが場所っプっていうのを高円寺の高架下でやってたんですけど、メンバーが4人くらいいて、土曜の夜10時からそのうちの誰かが絶対そこで酒を飲んでるっていう状況を作ってて。来る人は自分で食べ物飲み物を買ってきてただ寄り集まってしゃべってるんですよ。誰も何も売らないし買わない店っていう。2006年には僕も場所っプでPaper Talkっていう、自主制作の印刷物の交換会をやったりしました。
あと、陽光さんが自分の古着屋を深夜まで開けてて、商店街にあるほかのお店はもう閉まってるから「そろそろ店広げるか」って言って服がかかってるラックをガラガラって30メートルくらい先にまで動かしてったりとかしてて。路上に自分の店を拡張し始めるんですよ。…そういう感覚が自分の中ではすごい影響受けてます。

  •  

渡:
なるほど。ZINEとか印刷物もけっこう作ってますよね?

 

齋:
一時期はけっこう作ってたんですけど、食傷気味になっちゃって。ZINEとかを使ってどういうふうなことをやるかって方向ならまだ興味はあるんですけど。

 

渡:
僕も何種類か作ったことあるけど、ZINEて元手けっこうかかりません?やり方によるかもしれないけどけっこう大変で…コストに合わないなあとか思っちゃって。作品と同じような感じで1点もののZINEみたいなのを作ったりもしてて…。(自作のZINEを出す)これは古雑誌のモノクロのページに下地材塗ってそこにプリントしてるんですよ。全然(元の作品の)再現はできないんだけど、10部作って1ページ1ページが全部違うっていうのを作ったんですよ。

 

齋:
これはお金も手間もかかってますね。

 

渡:
下地自体が1枚しかないものなんで…もともとは大量に刷られたものだけど。下地が透けてこう、見えたりして。上からインクジェットプリントできるジェッソを塗ってあります。

 

佐:
紙が波打ったりしないんですね。

 

渡:
古い雑誌とかは、既に湿気を吸ってたりするので、水張りされた紙みたいな状態になってるんですよ。だからけっこう塗ってもヨレなかったりするんです。まあこんなの作ったりとか、あとそれこそ今回出してるやつの…(自作のZINEを出す)これはCDジャケットサイズで画集を作ったんですけど。でもやろうとすると何かしら凝ったり1点ものにしようとする性格が災いして(笑)つらくなってきちゃう。それで全然やらなくなって、今はCD。音楽なら複製が楽だっていうことに気付いて(笑)。だからそれこそさっき言ったみたいに、ZINE作って、その後のどうこうみたいなのが生まれればまた面白くなるのかもしれないけど。ZINEのイベントにこういうのを並べて売るのも正直よくわかんないってのはある。

 

齋:
僕は、作品集みたいなのでいつか立派な体裁のものを作ってみたいっていう願望はあるんですけど、他のやり方だと何かしらの出来事とかと連動させたいなっていうのがあって。例えばある場所に旅行行きたいなって思ったら、到着するまでに旅行記とかスケッチとか描いてZINE作って、旅先のどこかに隠しておくとか。それで「ここにありますんで」って告知して、後で同じように旅をしていった人が隠してたのを見つけて「齋藤はこういう風に景色を見てたのか」とか感じてくれれば面白いかな、とか…。そういうアイディアはあるんですけど。まだ実行できてないですね。

 

渡:
どっちかっていうと、見る人の状況とか環境みたいなものに介入するのが面白いのかなあって今思いましたけど。僕自身も割とそうで、今回の展示も原宿に捨ててあった段ボールを拾って棚を作ったりしてるんですけど。平面的に展示するのが自分の中でちょっと飽きてる部分があって「どうしようかな」と思ってたら、齋藤さんが垂木でちょっとした棚を作ってていいなと思って。「SOFT SHOP」って言ってるしやっぱ棚作ろうかなって思ったんですよね。そうするとやっぱり見え方変わってくるじゃないですか。

 

齋:
あの段ボールの棚はかなり効いてる感じがしますよね。渡部さんが思いついてくれて良かったなあと思って。物販のTシャツの在庫を置くスペースもできたし。

 

渡:
展示して終わりという感じではなくて、見に来た人にちょっと違和感を与えたりとかそういうのをやってみたくなっちゃうんですよね。

 

齋:
…佐藤さんが最初打ち合わせした時「そもそも2人はアーティストという肩書きなのか」みたいなことを言ってたような気がしたんですけど。

 

佐:
「自分の作品をアートだと思っているのか」とか、そういう話でしたっけ。

 

渡:
あーなんか、「雑貨なのか作品なのか」みたいな。

 

佐:
多分2人とも自分がアーティストっていうことになんか…

 

観客:
(笑)

 

齋:
あっ、けっこうウケてる…えっ?ああ、「雑貨なのか作品なのか自分の中で定まってないのかよ」っていうところが面白いってことですか(笑)なるほど。

 

渡:
仮に自分の作品が雑貨屋さんに置かれてるとするじゃないですか。そこで「俺の作ってるものは雑貨じゃなくてアートなのに」とかは特に思わないですよね。

 

齋:
思わない。

 

観客:
(笑)

 

齋:
あれ?こんなにウケるとは思わなかった(笑)

 

渡:
そこがなんか自明のもののように分かれてると思われがちだけど、そうでもないんじゃないかっていう気持ちはありますよね。

 

齋:
そうですね、自分の中では。去年カセットテープの展示をやった後に「これがライブハウスの物販の中にちょっと紛れてたりしたらどうなんだろう」とか思ったんですよ。音楽イベントの中にただ意味わかんないフィールドレコーディングが入った、自作ジャケットのカセットを売ってるやつがいたりしたら面白いんじゃないかって。そういう状況だと雑貨として売られることになるわけじゃないですか、作品と思ってくれる人もいるだろうけど。
これは佐藤さんには意地悪な話になっちゃうんですけど、ギャラリーでも作品として売るか雑貨として売るかで売上げの取り分が違ってきたりするのも、そこの境界がなんか面白くて。渡部さんのLPは作品だけど、CDも1点1点ジャケットを作っててそこはれっきとした作品のはずなのに音がメインだから雑貨としての扱いになる。

 

渡:
一番わかりやすいのは、複製できるかできないかですよね。ZINEとかも。

 

佐:
そうそう。その辺の分け方は、一般的なやり方に乗ってる部分もあるんですけど。渡部さんのCDにしても、あれがジャケット全部一緒だったら全く問題はない(笑)んですけど…

 

齋:
ジャケットが1点ものになってるから、その境界線が曖昧になってるっていうことですよね。

 

渡:
中身自体は全部一緒なんだけど。盤面やジャケットに手を加えてしまったがために…

 

佐:
齋藤さんもTシャツは全部手刷りで雑貨として売ってるけど、考えてみれば(ギャラリー常設のシルクスクリーン作品を指して)それだって作品なわけじゃないですか。

 

齋:
渡部さんのCDが雑貨なのか作品なのかっていうのを考え始めると、Tシャツも全部同じ柄を刷ってるわけですけど、それ着て街を歩いてる人がいれば僕の絵が街中を動き回ってるっていうことになる。Tシャツを見た人が「いいね」って絵を意識したらそれも展覧会のうちに入るのかとか、考え始めたら面白いし。

 

観客:
生地をキャンバスとしてとらえてる作品的な意識なのか、人がどう着るかっていうデザイン的な意識なのかっていうとどっちなんですか?

 

齋:
今回作ったものは、その分け方で言えばデザインですね。前はコラージュっぽい感じでシルクスクリーンを重ね刷りしたりもしてて、その時は割と絵を描く感覚と近い感じで作ってたと思いますけど。でもそれはプレゼント用に作ったやつとかで…1点ものを売りにして販売したことはないんですけど。逆に、そういうグチャグチャに刷ったTシャツを展覧会に作品として出すとしたら自分はどう扱うのか、とかも考えたり。作品以外の領域にあるもの…今「雑貨」って言葉で言ってますけど、そういうものは作品と比べればレベルがひとつ下がるような認識のされ方をすることが多いけれども、かといって渡部さんのCDジャケットの価値が損なわれるってわけでもないし…そこが面白いところですよね。

 

渡:
そう、面白いところなんですよね。

 

齋:
そういう微妙なところをどんどんいじっていきたいっていうのがある。

 

渡:
もともとレコードだって複製物だけど、ジャケットにコラージュして1つしかないモノを作ろうと思って作って、そしてそのレコードから作った音楽でCDという複製物も作って、そのジャケットをまた1つ1つ作ってって、自己再生産みたいな感じになってますけど。僕は。なんかでも流通って言ったら、広告とか…そんな仕事とかやったことないけど、すごいなあと思いますけどね。

 

齋:
そうですね。今まで僕はCDのジャケットとか、こないだ本の装画もやったけど、その都度「これが世の中に流れてどういう状況が生まれる可能性があるのか」っていうのはなんとなく考えていて。だから、もし今までやってきたことをまとめて見せる機会ができたら自分のそういう部分も見せていきたいから、なんか…どうするのがいいのかなあ。今まで作ったTシャツを並べるにしても、それを作品として並べることになっちゃうし。

 

渡:
グッズ問題。…いやー、上から塗ってる木彫りの熊とか、全然雑貨でいい。

 

佐:
例えば、取り分とかの話は置いといて、渡部さんのレコードのシリーズのメインの要素が音で、ジャケットがそれより下になることってありえますか?

 

渡:
いや僕はほんとに、それこそMadlib(注17)みたいに異常に曲を作り出して、トラックメイカーとして名が売れた時に(笑)「このジャケットも実はやってるんだ」みたいになる方向性も、無くはないかなあくらいの感じで…(笑)

 

佐:
曲を作る時、元ネタは塗ったレコードからサンプリングしてるから、音と切り離すことはできないじゃないですか。どっちをメインにするかという時に、「音が作品なんだ」というのと、「この音楽を作るのにこういうふうにレコードを塗っているんだ」というのと。そのどちらかを切り離すとかって考えられますか。

 

渡:
それは発表する場所によって変わってくるんじゃないですか。切り離すっていうのもありえると思います。例えば「今回ノイズの人を集めました」ってなったら、音のほうがフォーカスされる可能性が出てくると思う。僕がやりたいのは、どこにフォーカスをしていいかわからないんだけど、いろんな方向性があるようにはしておくっていうことで。それこそ一番最初に言ってた「コラージュという手法ひとつにあまりフォーカスされたくない」みたいな、そういうのもその気持ちが出たのかなって思いますけど。

 

齋:
作った後にそれをどう使うかっていうところまで考えたいし、そこに伸びしろを残しておきたいですよね。作品をただ展示をしたっていう事実を作るためだけに使うんじゃなくて。

 

佐:
さっきの話に戻りますけど、どういう場所に存在してもやっぱりアート作品だっていうのは変わりないんじゃないですか?絵は雑貨にはなりにくいんじゃないですか。

 

齋:
そういうジレンマみたいなのは多少やっぱりあって、「どうあがいたって美術作品でしょうが」って言われたらはいって答えますけど。でも1点もののアクセサリーとかもどうあがいたってアクセサリーなんだろうし。だからどんな流通の形態をとってても付きまとう問題だと思います。だから僕の場合は、自分が好き勝手に描いた絵がどれほどのふり幅を保っていられるかをいろんな場で実験して細かく検証していきたいという感じです。

 

渡:
アート作品て意識してなくても、自分の作ったものを流通させてる人はたくさんいるじゃないですか。コマーシャルな仕事をしてる方々にしても。そこの違いはなんなんだとか。

 

齋:
別にアートだからすごいってわけでもないし。

 

渡:
そこにデザインフェスタギャラリーあるじゃないですか。あそこ今クラフト作家の人たちがけっこう展示やってて。そういう人たちって、いわゆるアートって言葉を使ってんのかなってのが…気になりますよね。僕がそこにこだわっちゃうのは「どこにあってもアート作品なんじゃないですか」って言ってたから、どうなんだろって思って。

 

齋:
でも、「どこにあっても」の中にも多分そこにいろんなレイヤーがあるんですよ。すごく細かく見ていきたい、そこは。

 

渡:
自意識の問題なのか、作ったものが流通されてる場所の問題なのか…

 

齋:
僕としては、アートっていう自意識は全然無くて。雑貨でも全然いいんだけど、そう認識しづらいものを作ってるって自覚はある。

 

佐:
そもそも雑貨って何だ?って話にもなってきますよね。英語でもちょっと大まかすぎてピンとくる単語が思い当たらない。

 

齋:
そういう、日本語と英語でのニュアンスの違いとかからも面白い問題は拾えると思うんですよ。大々的にコンセプトと言わないまでも。

 

佐:
これは答えは出るんですかね?

 

齋:
バリエーションがただただ増え続けるだけかなあ。今回、このギャラリーはこういうシルクスクリーンのポスターがいっぱい展示されてるじゃないですか。この雰囲気の中で、記録メディアを支持体にした作品をメインにして「SHOP」って名のついた展覧会ができてるのが面白い気がする。

 

観客:
すいません、ちょっと都築(潤)さんが質問あるそうなのでいいですか?

 

都:
雑貨なのかアートなのかっていうのは面白いですね(笑)。単純に、ポップアートって考え方があるじゃないですか。でもそれ以前に「雑貨なのかアートなのか」っていうのは言葉として新鮮だなあって、思いました。「デザイン」が抜けてるんですよね。商品とアートを仲立ちするものが話に出てこなくて。デザイン抜きにして、モノの話題だけで話せる時代なんだなって(笑)

 

齋・渡:
…本当ですね!(笑)

 

都:
ポップアートの時に「デザインなのかアートなのか」っていう対立項がある程度あったでしょ。2人の話デザイン抜けてるからさ(笑)。それをまた「抜けてた」って言っちゃうところが…(笑)。それと、デザインフェスタギャラリーの話。いいとか悪いとかじゃなくて、ああいう場所があって、その中でみんながそれぞれ作品を発表して販売してるっていう状況が存在し続けてるのはけっこう重要だなと思う。

 

佐:
齋藤さんも渡部さんもモノから入ってるところがあって…。例えば、こういうもの(ギャラリー常設のシルクスクリーンポスター)はアートなのかデザインなのかって話になるじゃないですか。カセットだったりレコードだったり、お2人はモノありきって感じがするんですよ。

 

齋:
で、ブツとしての流通の話になってしまって、「雑貨なのかアートなのか」みたいな話になってしまうと。だから…デザイン抜けますね(笑)

 

渡:
とりあえず2人とも「デザインて怖いな」っていう(笑)

 

佐:
…何か他に質問や聞きたいことある方いらっしゃいますか?

 

観客:
齋藤さんは、割と場所と関わってみたいなことをよくやられてますけど、渡部さんはこれからやってみたい場所とかありますか?けっこう作品第一なところがあると思うんですけど。

 

渡:
うん、最初にとりあえず作って、後からどこにはまるか探すみたいな。やってみたい場所は…齋藤君ゴミ捨て場でやってるでしょ?あれすごいなあと思って。

 

齋:
あれは半ゲリラみたいな。捨てるものを置けるから、そこで展示もできるだろうってことでやったんですけど。

 

渡:
作品がなくなるリスクのあるところでやるのは面白いなあと思って。チラシ置き場とかもそうだけど、誰かが持っていって動いちゃう可能性がある場所。

 

佐:
でもそういう場所に限らず、路上に置いといたら作品はいつかなくなるじゃないですか。やれるんじゃないですか。

 

渡:
うーんでも、もうやってるからいいかなあって。どっちかっていうと僕は作ってからどう動くかを考えるタイプなんですよ。これどこにはまるかなあって。木彫りの熊とかは公園に持っていって写真撮ったりしたんですけど、それも作った後に考えて。…場所から喚起、かあ。埋立地で作品置くくらいかなあ。これはもうちょっと続けてみたいんですけど。どんどん埋立地は風景変わっていくし、単純に記録として面白いかなって。

 

齋:
ターンテーブルがたくさんあったとして、かけながら展示するとか…

 

渡:
あの(CDに収録されている)音作った時に、最終的にはオールドスクールのヒップホップみたいな作り方してるんですけど、そういうコラージュ的な音を入れるのもアイディアとしてはありましたね。

 

齋:
そういう展示だと、音メインな感じにもなりますよね。ビジュアルが付随してくるみたいな感じで。

 

渡:
展示の仕方に関しては、本当にまずどこでやるかありきというか。過程の状態ではなかなか考えたことはないかな。とりあえず、あんまり整ってないところのほうが面白いと思ってて。このギャラリーもけっこう面白くて、梁とかいっぱいあって。壁は白いけど、なかなかタフな場所ではある。なんかそういう、場所があってそこから自分の持ちゴマを使ってどうするかみたいなのが多いです。展示に何回も出してる作品とかもザラにあって。それで見せ方を工夫してるっていうのもあります。

 

佐:
齋藤さんは今までやったことないけど狙ってるとことか、やれたらいいなと思ってるところとかありますか?もしくは実現できなかったような場所とか。

 

齋:
やってみたいところ…古本屋とか。本に忍び込ませるっていうのはやってみたいですけどね。一度、自分で作ったしおりを古本に挟むっていうのはやったことがあるんですけど。
最近はゲリラ的な展示より、じかにその場所を管理してる人と交渉して許可をとってやっていきたいです。展示する側もされる側も気持ちいいし。当たり前の話ですけど。

 

観客:
私は前に、好きな画家の画集とかに自分の展覧会のDMを挟んだりとかしたことがあって。その挟んだ行為に関しては告知も何もしなかったんですけど。ゴミ捨て場での展示とかしおりを挟んだりとかでも、告知をしたいという気持ちは常にあるんですか?

 

齋:
告知はしたいですね。一応見てほしい欲求はある。
多分僕は展覧会っていう出来事を作るのがすごい好きなんですよ。告知をゼロにしても、別に展覧会とは言えるんだけど…。
展覧会をやった後に告知したっていうのはやったことがあって。2008年に、新宿を歩き回っていろんなものに目玉をくっつけて写真を撮ってまたはがしてっていうのをやってって、その行為自体が展覧会で。で、「展覧会は終了しましたが、記録写真をWebにアップしたのでこちらをご覧ください」っていうビラをまいた。展覧会をやるにあたっても、告知と展示とその後の事後処理だとか、記録を残したりっていういろんな作業があるじゃないですか。それをどういじるかっていうのもやってみたことはある。順序をちょっと変えてみたらどういう出来事が起きるのかとか。

  •  

渡:やっぱりパッケージフェチというか…カセットとかだけじゃなくて、展示とかそういうレベルのところでもいろんなバリエーションを作りたいっていう。

 

佐:
例えば、これをアートっていう言葉と切り離して考えるとしたら何なんですかね?マーケティングをやりたいというふうにはならないんですか。どういう流通をしてこういうターゲットがいて、っていう…。

 

齋:
それはやってる本人がどういう地点を目指しているのかによりますよね。

 

渡:
マーケティングっていう仕事が具体的にどういう仕事なのかってよく知らないんですけど、それはすでにあるマーケットを分析するものではないの?

 

佐:
まあ、何かの商品を流通させるにあたって、効果的なやり方を考える仕事だと思ってるんですけど。

 

齋:
だけど、それってなんかある目的が最初にあって、それを達成するために戦略を立てていくってことだと思うんですよ。僕の場合は場所に対して「こういうことができるな」と思って、そこに自分の絵を置いてみるっていうやり方なんで…何か達成するための活動ってことではないんですよ。

 

佐:
じゃ成功も失敗もない?

 

齋:
成功と失敗があるとしたら、それは展覧会の告知がうまくできたかとか、ほかの人たちと一緒にやるなら連絡うまくやれたかとか、そういう事務的な部分ですね。

 

渡:
齋藤さんが使う「流通」って言葉は独特ですよね…

 

齋:
あー、よく使ってますね。なんなんだろ。

 

観客:
…私は絵を描かないんですけど、展覧会とか人に見せる方法とかをお2人ともすごい考えてますけど、私から見るとまず「絵を描く」っていうこと自体がけっこう特殊なことで。絵を人に見てもらう前提で描くっていうこととかも。私から見るとその次の見せることについて当たり前のように2人とも考えてるのが、当たり前じゃないというか。前に誰かが言ってたんですけど「人に自分の絵を見てもらうなんて頭がおかしい」って。絵を描く行為とそれを人に見てもらうっていうのが、日々料理するのと同じレベルにある気がしたんです。まず手を動かす。「展覧会でこういうことがしたい」ってのはあるけど「画面の中でこういうのがしたい」っていうのはすごい後ろのほうにある感じがしました。画面の中の出来事は問題じゃないくらいの。お2人にとって絵がそういう存在になったのってどういう過程があったんですか。

 

渡:
いや、作ってる時は当然画面の中のことしか見てないですよ。僕はやりたいことはそんなに無くて(笑)目的のために帳尻を合わせて作品を作るっていうのはあんまりないんです。ただ、こういう絵にしたいんだっていうのはやってる最中いろいろ考えてます。なんか違うなとかは。

 

佐:
初めから完成系をイメージしてるわけではなく、結果こうなったという感じですか。

 

渡:
そういう時もあるんですけどね。

 

観客:
美大とか出てると、それがけっこう不思議で。なんでかっていうと受験生の時エスキースをちゃんとしろとか言われてたし、こういう画面にしたいっていうのは最初からかっちり決めて描いてたんですよ。油絵科だったんですけど。

 

観客:
ロジカルに、こういうバランスがいいよねとか考えてるところはあるんですか?

 

齋:
感覚的にはありますけど。その積み重ねをロジカルと言えるんであれば考えてると思います。

 

観客:
手を動かすっていう行為のほうが大事?

 

渡:
それがないと…。

 

齋:
時間余ってるし、作業場にまだ描いてないキャンバスや板があるからじゃあ絵描こうみたいな。

 

観客:
今までの話とけっこう違っちゃいますけど、2人とも四角が好きなんですか?

 

齋:
それ梅津庸一(注18)君にも言われたけど、四角好きですねなんか。

 

渡:
僕も。

 

佐:
基本的に絵って四角が多くないですか?

 

観客:
でも四角ではあるけど、それをあまり意識させない絵っていうのも多いじゃないですか。

 

渡:
ああ。2人とも画面内の構成をすごく意識している感じがありますよね。角の部分とか。僕の場合コラージュで、人の写った写真だったら人の形に切ることもあればそのまま貼ることもあるし。そもそも素材が四角いというのが大きいです。それを隅に入れるのか真ん中に入れるのかっていうのも、四角が基準になっていることが多いです。

 

観客:
丸いもので何か作ろうってなった場合はどうですか?

 

渡:
丸も好きですよ。今回出してるのでもレコード盤に手を加えてるし。

 

齋:
僕も丸好きです。たまたま手に入る素材が四角いのが多いので、四角い絵が多くなるというだけで。

 

観客:
バキバキに割れちゃってるものとか…

 

齋:
そういうのでも全然興味あります。四角に特にこだわりはないです。

 

観客:
…丸いものていうところでちょっと思ったんですけど、渡部さんが作っていたタバコの曼荼羅の作品…実物は見たことないんですけど、すごく気になってて。あれはこういうのを作ろうと思ってタバコを集めないと作れないものじゃないですか。だからどういう思いで作ったのかなって気になったんですけど。

 

渡:
多分…病気なんですよね(笑)自分の吸い殻なんですけど。昔から空っぽになったものを集めるのが好きで…カロリーメイトのフルーツ味が大好きでその空き箱とか、使い切った同じ電池とかを捨てずに集めてたことがあって。それと同じ感覚でタバコのフィルターを集めて幾何学模様みたいにして。

 

佐:
それは制作目的じゃなくて、たまってたものなんですか?

 

渡:
いや、タバコに関しては意識はあったと思うんですよ。でも全然意識せず集めてるものもあって。溜まっちゃったけどどうしよう、捨てるかみたいな感じになったら使うみたいな。

 

齋:
…都築さん何かありますか?

 

都築潤:
さっきすごくウケたのは、マーケティングの話に結びついたので面白いなと思って。流通に関して戦略を立てるのがマーケティングで、その間に…ちょっと話が固くなっちゃうんだけど、ダダとか反芸術の分野が話題の中で抜けていたから、そこが直結したってところが面白かったんですよ。さっきデザインが抜けたのと同じように、全くそういうのを意識せずに会話が成り立っちゃうんだなと。

 

渡:
美術の話をする友達がいなかったんだと思う(笑)

 

都築潤:
でもね、良いですよそれ(笑)。それとさっき、四角に対しての質問があったじゃないですか。それ絵画にとっては大問題で。四角が好きだって自負してること自体ものすごいメディアへの意識も高いっていうことなんだと思う。絵画というジャンルの話ではなくて。そこは逆にちょっとこっちが聞きたいくらいで。まだその話題は盛り上がるんじゃないかなあと。カセットやLPジャケットにしても、僕なんかの世代でもずっと普通に見てきたものだし、その中にビジュアルがあって当然だし、そのメディアに影響を受けるのは当たり前で…その中でそれをどうしようかってことをやってるけど、矩形の中でやってるとそこの中から抜け出せないのかも、しれない。でもそれは自分も感じるし。っていうのは、ありますね。

 

観客:
デザインとしてやってるんですか…?

 

渡:
どうなんでしょうね。

 

都築潤:
デザインていうより…メディアかなあ。それを壊そうとか援用しようとかではなくて、いずれにしてもそのメディアから影響を受けている。それは感じますね。

 

渡:
雑誌とかね…

 

齋:
そうそう、雑誌に丸い図版てあんまりないから、その影響で四角が多くなるとか。メディアの話になりますよね。

 

渡:
…とりあえず、2時間10分話しましたね。

 

齋:
おお、すごい。1時間半くらいの予定だったのに。休憩もなしで。

 

渡:
すいません。
 
佐:
今日は皆さんありがとうございました。

 

(拍手)

 

 

(注1)グループ展…「2nd Anniversary Exhibition: Born 2 _____.」http://the-blank-gallery.com/blog/?p=1435

(注2)絵画サークル展…齋藤祐平企画のグループ展。2014/5/1〜5/5に阿佐谷地域区民センター内にあるギャラリースペース「阿佐谷ぶらっとりー」にて行った。http://lopnor.archive661.com/action/index16.html

(注3)林香苗武…画家。1991年生まれ。hieido.com

(注4)天体…齋藤祐平企画のシリーズ形式の展覧会。毎回一人の作家の一日個展を開催している。http://lopnor.archive661.com/action/tentai

(注5)棚ガレリ…神保町・美学校内の本棚にあるギャラリー。http://tanagallerybookshelf.com

(注6)美学校…神保町にある歴史ある学校。http://www.bigakko.jp

(注7)芸術公民館…現代美術家・会田誠が新宿歌舞伎町に2010年に起ち上げた美術家達が集うためのサロン的な場。現在は会田誠は関与しておらず「芸術公民館跡地」として運営も変わっている。

(注8)TRANS ARTS TOKYO…東京・神田周辺で行われているアートプロジェクト。http://www.kanda-tat.com/

(注9)mograg garage…東京・国分寺にあるギャラリー。http://mograg.com

(注10)「Lopnor Cassette Archives」http://lopnor1982.tumblr.com

(注11)平間貴大…新・方法主義者。1983年生まれ。http://qwertyupoiu.archive661.com

(注12)「齋藤祐平インタビュー」http://www.kalons.net/index.php?option=com_content&view=article&id=4544&catid=3&lang=ja

(注13)「絵と美と画と術」…美学校内で行われている、佐藤直樹、都築潤、マジック・コバヤシ、水野健一郎、池田晶紀、小田島等を講師陣とする講座。http://bigakko.jp/course_guide/media_a/e_bi_ga_jyutsu/info.html

(注14)夢の島…東京都江東区の町名。ゴミの焼却場があり、そこから出た灰で東京湾を埋め立てた地域を「夢の島」と称している。

(注15)素人の乱…高円寺を中心に何店舗かリサイクルショップなどを展開している。他にも活動多数。http://trio4.nobody.jp/keita/

(注16)山下陽光…「途中でやめる」というブランド名でのリメイク服制作、広島の原爆ドーム近くにあった「アトム書房」の調査など、活動多数。http://ccttaa.jugem.jp/

(注17)Madlib…ヒップホップ・プロデューサー。様々な名義でのプロジェクトがあり、これまで発表された曲数だけでも膨大な数がある。

(注18)梅津庸一…画家。1982年生まれ。http://www.arataniurano.com/artists/umetsu_youichi/

 

 

※この文章は齋藤が文字起こししたものを佐藤・渡部・齋藤の3人が校正し、さらに都築潤氏に校正をお願いしたものです。

 


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